282 :言の端 ◆4lTwCuEYQQ :2006/06/18(日) 06:10:53.03 ID:UB38iNn30
ガシャン。ドカドカ。バリン。
ガラスが割れたり、走り回ったり、皿の割れる音がする。
「ああ、すまないね。精神的に不安定なので、少しうるさいかもしれない。
今ではあんな事になって、ここに入ってはいるが、昔は聡い子だったのだよ。
少し、あの子……いや、彼の話でも聞いてくれるかい?」
と、皺も増えてくる時期になったであろう男性が言う。
暴れている少年と同級生の、少女は頷く。
「彼の母親は彼を産む五日前に、事故に遭い彼を心配していた、
が彼を産んだ時には何も障害が無いように見え安心していた」
「そして、生まれた後、4,5歳の話だ。
彼は、親に名前を呼ばれただけで、何をするべきか理解し、行動に移していた。
親も二三回位ならまだ、うちの子天才かも、と思ったかもしれない。
しかし、七回くらい連続で意図を汲まれた時には、流石に怖くなった」
そこで男性は、一旦話を区切り、少女が頷いたのを見ると、また話し始めた。
「時間は飛んで、小学校だ。
彼は、おい、と先生に呼ばれただけで、クラスをまとめて静かにさせたり、整列させたりした。
年齢が上がるにつれ、彼が実行する事は先生の意図する所に近く、前は七十%程だったが、今では九十%に近くなってきた。
やはり先生も怖くなっていたようだ、まあ、無理も無いとは思うがね。」
283 :言の端 ◆4lTwCuEYQQ :2006/06/18(日) 06:11:14.11 ID:UB38iNn30
「中学校での話しだ。ここからは君も知っている話になると思う。
そこでも彼は小学校と似たように過ごして、クラスのリーダーでいたのだろう?」
少女は頷くと、言った。
「はい、優はクラスのリーダーでした。そして、責任感とかも有って、だからっ……」
男性はその先を言わせないように、音を重ねた。
「そう、彼はリーダーで、結構学校を楽しんでいた。だが中学三年の六月、つまり三ヶ月前、不幸な事が起きた。
彼は事故った。ぼーっと歩いていたら、いつの間にか車道に出ていてバイクに撥ねられた。
しかし、受身を取ったおかげで殆ど無傷だったが、家に帰ってきて、寝て朝起きると。
耳が聞こえなくなっていたようだった。薄々とは気づいていたが、やはり私は驚いた。
しかし、彼はまだ自覚していないようだった。学校に行って漸く自覚したようだが、
たいした事無いだろうと思っていたのか、二ヶ月間その状態で学校に行っていたが、やっぱり見えない所で色々参ってたらしい。
三ヶ月目少し入った頃、爆発したのだろう? 泣きながら学校の窓ガラスを割って回って、だから、こんな精神病院に入って。
きっと、元々耳はあの事故のせいで、最初から聞こえなかったと思ってる。なのに、人の言いたい事が判ってしまって、だからコミュニケーションが取れた、
でも、今は事故のせいで言葉が分からない、なのに君は彼、いや、息子の事が好きだから、助けたいというのか?」
少女は力強く頷いた。そして口を開く。
「ええ、私は優を助けたいです、何を捨ててでも」
「分かった、決意は固いようだ。優をよろしく頼む」
そう言って、男性は頭を下げる。
少女も頭を下げて、立ち上がり、メモ帳を持ち、優のもとへ向かう。
少女は「優!」と叫んで抱きついた。メモ帳に何かをすらすらと書いて、優に見せ、泣き出し、そして優も一緒に泣き出した。
その後数ヶ月して。
優の耳の聴力は戻らないながらも、前と同じように喋る事ができ、気持ちを理解できるようになった。
二人は恋人になり。一緒の高校に行っていて幸せにやっているが、それはまた別の話。 fin