【 時代 】
◆jKdJ051mHQ




97 :時間外No.01 時代 1/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:04:40 ID:6ALZynw7
司馬懿(しばい、ピン音 ; Sima Yi 179年 - 嘉平三年8月5日(251年))は中国三国時代に魏に仕えた武将、政治家で西晋の礎を築いた人物。字は仲達(ちゅうたつ)。諡号は高祖・宣帝。〜Wikipedia『司馬懿』より〜
   序
美百合は俯いたままだった。背の低い美百合は、旋毛をこちらへ見せていた。
いつもなら、美しい栗毛色の美百合の髪と対照的に白い健康的な頭皮が見える角度だった。
「……むわ。私、生むわ」
 掠れたような声。濁った色の頭皮。ろくに睡眠も取ることができなかったのだろう。睡眠不足になるほど疲弊した心を見せまいとしてか、美百合の顔の中でマスカラだけが異常に濃かった。
 「どうして、女というものはマスカラをつけるのだろう。男は睫なんか見やしないのに」と達哉は場違いなことを思った。
「生むって、相手の男は知ってるのかよ」


98 :時間外No.01 時代 2/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:07:18 ID:6ALZynw7
 びくりと美百合の華奢な肩が彼女の心の動揺を表した。
「たっちゃんには、関係のないことよ」
 きっと、顔を上げられた顔。化粧をしているので顔色はわからなかった。
センターパーツに分けられた前髪の下で美百合の鋭い眼光が達哉を放そうとしない。小鳥を守ろうとする母鳥に似た気迫。守るべき者のいる者だけが見せる鋭さ。
もう、達哉がどうこう言ってもどうしようもないことなのかもしれない。美百合は妊娠二ヶ月にして既に母としての自覚ができたようだ。
仲間達哉。この春大学生になる。人呼んで『仲達』。達哉が小学生の頃から呼ばれているあだ名だ。
白石美百合。達哉の八つ離れた従姉。そして、達哉の初体験の相手で関係は今でも時折続いていた。世間で言う官僚で事務官をしていた。
身長156センチ、体重は43.4というところだろうか。白っぽいジャケットに水色のインナー、ふわりと春風に揺れるスカートからはストッキングの長い脚が伸びる。美百合はオフィスカジュアル風に纏められた服装に細い体を包んでいた。
両腕を抱くように交差した白い手。右薬指にはダイヤの入ったリングをつけていた。例の男にからのプレゼントのようだ。


99 :時間外No.01 時代 3/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:08:11 ID:6ALZynw7
美百合は今年の四月に本省から、地方局に異動が決まっていた。本省には美百合を孕ませた男がいた。息継ぎする間もなく、突っ走って勉強して、国試に及第して、周りはオッサンだらけ。
同年代の男はガキに見え、逆にオッサンの醸し出すいろいろな『余裕』に身を任せた結果が、達哉の目の前にいる美百合だった。
相手の男には小学生になる娘と妻がいた。官舎住まいではなく、郊外に建つ一軒家。絵に描いたような普通の家庭の持ち主だと言う。
美百合に男ができたのは薄々気付いてはいたが、まさか、妻子持ちだとは思いもしなかった。相手の男に対する怒りより、憎しみより、美百合のことが心配だった。
 暴走したら止まらないのが美百合の昔からの性格だった。
「私、生むわ。絶対。だから、たっちゃんとは今日までよ。これも、いらない!」
 突きつけられたシルバーの携帯電話。金属の冷たい重さが、達哉の手に圧し掛かった。ソフトバンクがボーダフォンと呼ばれていた時代に二人で購入した物だった。
「俺じゃ、駄目なのかよ」
 振り絞った声。日本語なのに、どんな英語の発音よりも難しく感じた。
「は?」
 美百合は、右眉を顰め、黒目を大きくして達哉の顔をまじまじと見つめてきた。二人の間に吹く春風には、桜の白い花びらが混じっていた。
「俺、美百合のお父さんに、伯父さんに挨拶するよ。種だって二分の一の確立で俺の可能性もあるわけだろ」
「なに……言ってるの」


100 :時間外No.01 時代 4/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:08:34 ID:6ALZynw7
 乾いた美百合の唇。乾いた声。達哉の言葉を信用していないようだった。まだ、無責任な妻子持ちの方がいいというのだろうか。
「結婚しよう。俺が父親になる。従姉弟なら、合法だろ。誰にも後ろ指差される必要もない。大学なんか辞めて就職したっていい」
 美百合の硬い表情は変わらなかった。達哉は美百合に見せ付けるよう、携帯を取り出し、美百合の自宅にかけた。
「はい、白石です」
 冷たい金属の塊の向こうから聞こえてきたのは、中年の男の声だった。
「伯父さん? 俺、です。達哉です」
「ああ、たっちゃん。入学式は終わったのかい?」
 相手が甥だとわかり、伯父の声が和らぎを見せた。
「いえ、まだです。伯父さん、美百合さんを僕にください」
「え?」
「入学祝は、要りません。一生幸せにします」
「どうしたというんだい。たっちゃん」
 携帯越しに伯父の困惑が伝わってきた。
「馬鹿!」
 無防備な達哉の左頬に刹那、熱さを感じた。遅れて、肉を叩いた音がした。達哉は美百合から平手打ちを食らった。平手打ちの衝撃で携帯は哀れな音を立てアスファルトの上へ落ちた。
 黒いアスファルトに銀色の金属。無機質な物がぶつかった。振り返ると、美百合は、もういなかった。
「心なんか、無くなればいいんだ」
 アスファルトに落ちる白い花びらを見つめながら達哉は呟いた。携帯は、切れていた。


101 :時間外No.01 時代 5/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:09:02 ID:6ALZynw7
※ ※ ※
 達哉は帰宅すると、パソコンの電源を入れた。厚いカーテンが屋外からの日光を遮断し、暗室を保っていた。達哉はお気に入りから『2ちゃんねる』を開いた。
「そういえば、世間ではトナメで祭り状態なんだよな」
 何気なく開いた三戦板。美百合と一緒にプレイした三国無双も明日には、思い出と化してしまうのだろうか。
トナメスレを開くとVIPPERが沢山いた。埋伏かもしれない。
「三国志演義風に言うと『VIPPER百万。文才ある職人一千』とか呉の文官あたりが言って、『VIPPERより我が軍の優れた点は三つある。一つ。VIPPERは若年者が多いが、三戦には酸いも甘いも知った大人コテが多いこと……』とか周公瑾あたりが言うのかな」
 誰もいないので独り言になる。達哉は光栄マニアだった。三戦は人がいないので、F5キーを押す必要もないようだ。馬鹿らしい。達哉はF5キーを押すのを止め、机に己の全てを預けるように突っ伏した。
「馬鹿ヤロウ。俺とどんな気でやってたんだよ。遊びかよ」
 溢れた涙が耳に入った。目を閉じると、闇が優しく達哉を包み込んだ。

   1
「仲達、仲達」
 誰かが自分を呼ぶ声がした。頭が、重い。首と頭が鈍痛を訴えていた。
「兄上、本当に宜しいのですか?」
「黙れ、叔達。我が司馬家の者が仕官を拒み、自害したとなれば天下の笑い者ぞ」
 頭上から男の声がする。二人、いるのだろうか。二人の男は兄弟で、シュクタツという男が弟のようだ。


102 :時間外No.01 時代 6/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:09:29 ID:6ALZynw7
兄上と呼ばれた男は、とても大きな、冷徹な声をしていた。シュクタツと呼ばれた男は、声が高く、弱弱しい少年のような声の持ち主だった。
「しかし……いくらなんでも他人を」
「叔達よ。しかと見るのだ。この男、背格好が仲達とよく似ておる。奇怪な格好をしているが、髭を生やしたならなりすましが露見することもなかろう。それに、どうだ。この男、仲達と書かれた紙を持っているぞ」
「二兄と同じ、字なのでしょうか。それにしても、紙を持っているとは、この男、高貴な身分の者なのでしょうか。見慣れぬ墨で文字が書かれております」
「まあ、偶然にしても、これぞ天が司馬家に遣わした機会ではあるまいか。違うか?」
「はあ」
 兄に反論できないのか、シュクタツは黙したようだ。
 達哉は朦朧とした意識の中、何故、この男たちが自分のあだ名を知っているのだろうかと思った。重い頭を抑えながら、薄目を開ける。
 二人の男が達哉の顔を覗いていた。
一人は、のっぺりとした顔に神経質そうな髭の男。
三国志風に言うなら「白皙に切れ長の目、柳のような髭は天下を憂いているようだった」とでも書くのだろうか。新聞に載せるなら「キツネ目の男」が合致するのかもしれない。
二人目の男は、黒目勝ちな瞳があどけない少年だった。三国志風に言うとなんと書くのだろう。現代風に書けば「ジャニヲタ待望の最終兵器」とでも明星に書かれそうだ。二人とも、なんだかチャイニーズの好みそうな、年期の入った着物を着ていた。
「おお、気が付いたか。仲達」
 色白の男が達哉を揺さぶった。
「どうして俺のあだ名を?」
 思ったままの疑問を達也は男に投げかけた。
「何を言う。お前の名は、司馬懿仲達。儂の弟ではないか」
「儂?」
「自分の兄の名を忘れたのか? いいか。お前は司馬家の次男の仲達で、儂はお前の兄の司馬朗伯達、こいつはお前の弟の司馬孚叔達ではないか」
「シバロウハクタツ、シバフシュクタツ……」
 聞いたことのある名だった。確か三国志の登場人物だったような気がするのだが、達哉の好きな三国無双には出ていないような気がした。出てもモブ扱いとなると、マイナー武将か腐女子に人気がないのだろう。司馬孚叔達の方は十分腐受けしそうな顔なのに、と達哉は思った。


103 :時間外No.01 時代 7/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:09:53 ID:6ALZynw7
「それじゃあ、聞くけど今の首相は誰だ?」
 自分は、大河ドラマの撮影所にでも夢の中で来てしまったのだろうか。どうせなら夢の中だし遊んでやろうと思い、司馬朗伯達に問いかけた。
辺りを見回すとカメラも無いし、監督らしき人もいない。随分と広い屋敷のセットのようだ。空気は埃っぽく、土臭かった。
桜の花びらは一枚も舞ってはいなかった。
「何を言う。仲達」
 司馬朗伯達は狂人でも見るかのような哀れみと奇異の目で達哉を睨みつけてきた。思い出した。
司馬朗伯達は、司馬家の七達と呼ばれた司馬家の長男で後に魏の司徒(文化省大臣)になった人物のはずだった。七達とは司馬家の七人兄弟の字のことで、伯、叔、季、顕、恵、雅、幼と続いたはずだ。
 しかし、おかしい。通常、字は兄弟で統一するのが望ましく伯叔とあれば、仲と次男にはつけるはずなのだ。そして今、自分は仲達と呼ばれている。
では、本当の仲達はどこへ行ったのか。仲達という人物が存在しなければ、司馬孚仲達と一つずれていたはずなのだ。
「兄上、やはりこの男には」
 司馬孚叔達が司馬朗伯達に、ひそひそ声で耳打ちしている。司馬朗伯達は司馬孚叔達を制しながら、達哉に向き合った。


104 :時間外No.01 時代 8/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:10:14 ID:6ALZynw7
「今は建安の号が使われておる。『シュショウ』とはなんだ? 何度も言うが、お前は姓は司馬、名は懿、字を仲達。歳は数えの二十三。家族は張春華という八つ下の妻がいる。わかったな?」
 妻がいる? どういうことなのだろう。二十三で八つ下となると十五歳の妻がいるらしい。
数え年というのは正月が来れば強制的に一つ年上になるから、実質的には十四の妻ということになる。
達哉は真っ先に「ロリコンキタ─wwヘ√レvv!」(゚∀゚)─wwヘ√レvv!)─ !!!」「淫行オワタ\(^o^)/」と脳内で思い浮かべた。
VIPにスレを立てたなら、どのくらい釣れただろうか。
建安というのは確か後漢の年号だったはずだ。これも、三戦板に立てたなら、結構レス数がついたかもしれない。達哉は、携帯を持ってこなかったことに舌打ちしながら、ジーパンのポケットを弄った。
手にした二つの冷たい感触。どうやら、自分は夢の中に携帯を持ってきたらしい。しかも、美百合から返却された分も含めて二台。
自分と兄弟だと言い張る司馬朗伯達と司馬孚叔達は何やら、言い合いをしていたようだが、ふいに司馬朗伯達が面を上げ、言った。
「今日は疲れただろう。部屋に帰って休むが良い。叔達、仲達を案内せい」
 何者にも背かせないような威圧的な声。司馬孚叔達が、やれやれというように腰を上げた。
「兄上、どうぞ。ご案内いたします」
 達哉は司馬孚叔達の案内するとおりに従うことにした。兄弟だというのだから、夢の中でも殺されるようなことはあるまい。
「仲達、宦官と間違われるから、髭は伸ばすように。お前は、もうすぐ仕官するのだからな」
 達哉の背に司馬朗伯達の声が響いた。空では、輸入物オレンジのような橙色の綺麗な夕陽が赤々としていた。
高校が終われば予備校、受験生活の中では陽の下の生活など授業の体育の時間でしか味わうことがなかった。
 最後に夕陽を見たのは、いつのことだろう。
「綺麗な夕焼けだ」
 達哉は思わず、感嘆の声を上げた。
「そうですか」
 達哉の弟の司馬孚叔達は、つまらなそうに一言相槌を打っただけであった。


105 :時間外No.01 時代 9/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:10:38 ID:6ALZynw7
  2
 部屋に通され、達哉は驚いた。布団というものはあるが、ベットのような物はない。トイレに行くときは全て衣を脱ぎ捨て、トイレットペーパーでも変えるように衣も変えるらしい。
妻だと言う張春華(十五歳)は、達哉の知るような十五歳よりずっと身長が低く、146センチくらいしかないようだった。
 肝心の容姿は、「自重しろ」と言いたくなるようなガキだったが、化粧をさせて口周りの産毛を剃ればまあまあいけるかもしれない。
この世界の女は、化粧方法も違うようだ。エビちゃんのマキアージュでも、こいつに使ったらエビちゃん顔になるのかな、と達哉は思った。
「お前は、もう寝るが良い」
 少し光栄の台詞を意識して達哉は、張春華に言った。夫婦で姓が違うというのは日本ではおかしなことだが、中国では常識だ。
張春華は、不服そうな顔をしたが、素直に下がった。夢の中とはいえ、法に触れることはしたくはなかった。淫行なんかかっこ悪い。
とりあえず、やることは一つ。携帯を見ると、幸運なことに電波は三本立っていた。これは、夢なのだ。
夢の中なのだから、後漢の中国でも携帯の電波が入るのだと達哉は自分に説明した。携帯のお気に入りから開いた『2ちゃんねる』。そう、VIPと三戦へのスレ立てだ。
『14の妻を持ちましたが、何か質問ある?』とりあえず、VIPには立てた。もう少し、ひねりのあるタイトルが良かったのかもしれないが、理系の達哉には無理だった。
『【司馬】三国時代にタイムスリップしましたが、質問ある?』三戦にも立てた。さて、どうなるのだろうか。
14の妻を持ちましたが、何か質問ある?
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/05(土) 18:00:32.48 ID:
質問ある?
2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/05(土) 18:00:32.58 ID:
>>1
通報すますた!!
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/05(土) 18:01:00.57 ID:
2なら銀様と結婚!!
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/05(土) 18:01:01.13 ID:
orz
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/05(土) 18:01:01.13 ID:
春厨乙。


106 :時間外No.01 時代 10/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:11:00 ID:6ALZynw7
 達哉は、素早く携帯を打ち続けた。

27:1:2008/04/05(土) 19:59:44.42 ID:
>>6
スペック
俺→18歳。この春から大学生。
嫁→14歳。俺の妻・・・らしい。顔は、芸能人では似ている人はいない。
馴れ初め→兄貴が突然連れてきた・・・みたい。

11:1:2008/04/05(土) 20:04:01
>>10
司馬懿、仲達というらしい。どうやら、文官に仕官予定。仕官先は聞いていない。
司馬家の七達の一人みたい。

34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/05(土) 20:01:12.15 ID:
>>1
嫁の写メうp
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/05(土) 20:01:12.15 ID:
>>1
AV女優でも二次元でもいいから、似てる子たのむ。おっぱいの感じも。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/05(土) 20:01:12.15 ID:
>>1
こらこら、今日はエイプリールフールじゃないぞw


107 :時間外No.01 時代 11/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:11:24 ID:6ALZynw7
13:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/05(土) 20:05:59
>>1
手元に正史があったので書き出してみる。
どうやら、司馬家には仲達なんて人物はいないぞ。某大学史学科の俺が言うのだから
間違いない。
釣りにしても酷すぎる。
14:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/05(土) 20:07:12
>>13
自分も調べてみた。でも、気に掛かるのは七達なのに、伯達の次が叔達なんだよな。正史に載っているのは。伯仲叔といくのが普通だから、司馬家七達に仲達がいないのもおかしい。
もしかすると夭折した次男とかいたのかもね。
15:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/05(土) 20:07:56
そうすると>>1はすごい発見をしたのかもしれない。
16:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/05(土) 20:08:22
なりきりは、なりきりスレでやれ
17:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/05(土) 20:08:45
良スレ

 達哉は、三戦板の>>14のレスを見て、肌寒さを覚えた。自分は、歴史を変えてしまったのだろうか。
夢の中とはいえ、歴史を変えるというのはどういうことなのだろうか。映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だっただろうか。
歴史を変えると痛い目に遭うというような台詞があったような気がした。目が覚めれば大学生という新生活が待っているというのに……いや、大学なんて糞食らえだ。
夢から覚めた達哉を待ち構えるのは、『好きな女も繋ぎとめることができない腑抜け野郎』という醜い現実なのだから。


108 :時間外No.01 時代 12/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:11:48 ID:6ALZynw7
   3
 時は過ぎ、達哉は二人の子持ちになっていた。好きな女以外では絶対不能だと思っていたのに、体は自然に反応した。
子供は男の子で、司馬師と司馬昭と名付けた。たまたま家庭教師をした曹丕という少年が主君の曹操の後継者となり、王となり、皇帝となった。
主君曹丕の盲目に近い信頼、同僚の尊敬の目、二人の子も立派に成人した。
 いつの間にか、自分も美百合を孕ませた男のような平凡な家庭の主に納まっていた。この微温湯が死ぬまで、目覚めるまで続くと信じていた。
が、事態は一点した。
曹丕が急逝し、曹操の孫で曹丕の子である曹叡が帝位に就いたのだ。曹叡は父親の寵愛の厚かった達哉を煙たがった。
小国の諸葛亮が何をとち狂ったのか、北伐と称し、達哉の仕える『魏』の領土を侵そうとしていた。
「こんなもの、光栄のシナリオにもなかった……諸葛亮というのは、発明に優れた農夫で一生どこにも仕えなかった人物だ。三国志というのは曹操の『魏』と袁術の『成』と孫権の『呉』のことだったはず。やはり、俺がこの世界に来たことで歴史は変わってしまったのだろうか」
 諸葛亮は、寿命という伏兵にやられ、自爆した。死んだ人間は、とかく神格化されやすいものだ。蜀の民は『死せる孔明生ける仲達を走らす』と騒ぎ立てた。
敵が死んだから退却したまでだと言うのに。
「生きている者なら、知略によりなんともできようが死んだ人間は料理できまい」
 下の者を納得させるために達哉は言った。達哉の髪には白いものが混じるようになってきた。この世界に来てどのくらい経ったのだろう。
えらく長い夢だ。早く覚めないものだろうかと思う反面、目覚めた後の現実に向き合う覚悟はまだできていなかった。
そうこうしているうちに、またしても達哉の主君は変わった。曹叡が崩御し、曹芳が即位したのだ。
 達哉と共に曹爽という曹一族の者が幼帝を補佐するよう、遺言が遺されていた。だが、曹爽は達哉を名誉職に追いやり、達哉から実権を奪い去った。
「これは……」達哉の中の勘が警鐘を激しく鳴らしていた。何かあったら引き篭もろう。達哉が2ちゃんで学び取った知恵だった。
達哉こと、司馬懿仲達は隠遁生活を送ることにした。
 孫の相手に鼻毛抜き。退屈な毎日だった。


109 :時間外No.01 時代 13/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:12:09 ID:6ALZynw7
「旦那様、李勝なる者が荊州刺史へ赴任したとのこと。赴任の挨拶に参っていますが」
 下男の銭逸が達哉の耳元で囁いた。銭逸の吐息は生暖かかった。
李勝は曹爽の部下だった。挨拶はこじ付けで、俺の様子見か。仕方ない。相手してやろう。
退屈しのぎには、やはり2ちゃんしかない。達哉は何十年かぶりに携帯の電源を入れた。この世界に来て何十年。
息つく暇もないほど走り抜けた。誰にも追い抜かされないように。誰にも負けないように。勝つためには、常に勝者でいなければならなかった。
 一度権力というものを持つと今度は自分が奪われる側だった。奪うか、奪われるか。敗者か勝者か。歴史は、時代は、世間は簡潔だった。
※ ※ ※
 達哉は早速VIPと三戦にスレを立てた。携帯の中の世界は数時間しか経っていなかった。

♪俺を窓際へ追いやった奴の手下と安価で会話♪
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:00:17.48 ID:
面白いの頼む>>5
2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:00:50.11 ID:
オレ、ホモなんだ
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:01:22.12 ID:

4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:01:17.52 ID:
スワヒリ語で対応
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:01:17.56 ID:
とりあえず、髪をぼさぼさにして、ペットボトル小便を大量生産して、その中の3.4本は撒き散らして半裸で迎えろ。呆けたフリをしろ。恥じは捨てろ。醜態を晒し捲くれ。
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:01:22.45 ID:
女装で応対
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:01:25.19 ID:
犯してしまえ。アッー!!


110 :時間外No.01 時代 14/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:12:29 ID:6ALZynw7
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:01:26.22 ID:
>>5
GJ!
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:01:28.01 ID:
WWWWWW

 呆け老人のフリとは、なかなか笑わせてくれる。

【報 仇 雪 恨】魏の文官(孫あり)です。窓際へ追いやられました
1:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/06(日) 03:15:02
強烈な復讐方法を指南してくだされ。いかにもチャイニーズ的なやつ。
2:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/06(日) 03:18:50

3:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/06(日) 03:18:58
>>1
皮を剥いで、そいつの皮で靴を作る。
4:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/06(日) 03:20:03
そいつの子供を拉致る。そいつの三族皆殺し。そして、そいつ本人の前で自分を「お父様」と呼ばせる。
5:無名武将@お腹せっぷく:2008/04/06(日) 03:21:11
何年プランだ。話はそれからだ。計略と言うものは綿密に練るべきだ。

 さすが歴史を愛する三戦。慎重な意見だ。

 とりあえず、達哉は李勝の前に半裸で登場し、侍女に吊り上げられるようにして面会に挑んだ。まるでFBIに連行される宇宙人のようだと達哉は己の様子を思った。


111 :時間外No.01 時代 15/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:12:48 ID:6ALZynw7
「おお、李勝殿。ゆっくりしていってくだされ」
 部屋には一面ペットボトル小便ならぬ、杯小便を重ねておいた。もちろん、中身はきちんと床に散布しておいた。李勝は、つま先立ちでよろめきながら拱手した。
「はっ。司馬仲達様にはご健勝とのこと、真に喜ばしい限りで……」
「ささ、どうぞ。お座りくだされ」
 李勝に椅子を勧めると、バランスを崩したのだろう。李勝は足を滑らせ、杯小便の中へダイブした。
派手な音と共に、李勝が俺の小便を被る。「ざまあWWWW」と達哉は心の中でガッツポーズを決めた。
 哀れな李勝は泣き出しそうな顔をしていた。李勝の髭には達哉の黄金水の滴が光っていた。
「ご主人様。お薬の時間ですが」
 侍女が達哉の口元に薬を流し込む。飲み込むなんて、ことはしない。垂れ流しだ。達哉の肌蹴た胸元に煎じ薬がぼたぼたと落ちた。李勝が、露骨に顔を顰めた。どうやら、呆け老人の演技は成功したようだ。

25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:23:10.01 ID:
ボケ老人認定決定WWW
>>28
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:23:10.11 ID:
儂は男が好きなんじゃと言って、べろちゅー

「李勝殿」
 達哉は声を改めて、李勝を手招きした。
「は、なんでしょう」
 主人の曹爽に報告することを逃すまいとしてか、李勝の表情が鋭くなった。
「儂は男が好きなんじゃ!!」
 すかさず李勝にべろちゅーした。歯磨き粉もリステリンも無い時代だ。すこし、匂った。どうせ夢の中だしと達哉はヤケになった。李勝は、頬を引きつらせ、真っ青な顔で達哉を凝視していた。

45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/04/06(日) 03:30:00.22 ID:
べろちゅーしたぞ。
>>50


112 :時間外No.01 時代 16/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:13:09 ID:6ALZynw7
達哉はその後、安価通りの言動を貫き、三戦の知識をベースに時折まともな会話もした。最後に李勝には
「ヘイ州に行かれるとか。気をつけてな」
と耳元で息を吹きかけながら就任の祝いの言葉を述べた。
「いえ、ヘイ州ではなく、荊州です」
 答える李勝は、既に涙で瞳を潤ませていた。相当、達哉の嫌がらせが効いたらしい。
「そうか。荊州ではなく、ヘイ州な」
「いえ……」
 やり取りに疲れたのだろう。李勝は否定するのを止め、帰って行った。その後、曹爽は達哉への警戒を緩め、我が世の春を謳歌していた。
「これぞ、天が我に与えた好機!!」
達哉はクーデターを起こし、権力を再び己のものとした。
嘉平三年8月5日。達哉もとうとう、老いの波に屈する時が来た。
「今度は演技ではないぞ」
 達哉は自分を取り囲む家族に笑った。息子の司馬昭は、達哉の言葉に嗚咽を漏らした。
「二兄、二人きりでお話を」
 思いつめたような顔で司馬孚叔達が言葉を口にした。明星に載ってもおかしくないような少年も既に中年と化していた。
「なんだ。改まって。皆、下がれ」
 達哉は他の者を下がらせた。
「これまで、我が司馬家のために。ありがとう……ございました」
 司馬孚叔達が唐突に達哉の枕元で跪いた。
「これこれ、なんのことやらわからぬではないか」
 達哉は笑って、弟に立ち上がるよう命じた。
「あなたが我が家の庭先で倒れていた時、我が家では二兄の司馬懿仲達が気に染まぬ仕官を拒み、首を括って自害した日でした。
兄の仲達を所望した曹操は、執念深く、山に逃げれば山を裸にするような男でした。長兄の伯達は既に曹操に使えおり、崩壊した漢朝を見切っておりました。
伯達の頭にあるのは『名門・司馬家の名誉を守りぬくこと』、それだけでした。兄は、あなたを見つけるなり私に言いました。『叔達よ。こいつが今日から仲達だ』と」
 言葉が出なかった。おかしいおかしいとは感じつつ、いるはずの『司馬家次男不在』の歴史にはかような背景があったとは。


113 :時間外No.01 時代 17/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:13:31 ID:6ALZynw7
叔達は、堪えきれぬように一息に続けた。
「後は、もう、お分かりでしょう。長い間、お疲れ様でした。誠に、誠に有難うございました」
 達哉は、夢の中の弟の叔達に微笑んだ。
次は、現実の世界にけりをつけなければならない。それにしても、伯達には見事にしてやられた。
きっと、自害した本当の仲達という人物は曲がったことを潔しとせぬ、男だったのだろう。
 自分は、仲達という男を演じきることができたのだろうか。

   結
 目覚めると、いつもの机の前だった。口元から涎が垂れていた。目の前のデスクトップには2ちゃんがついていた。長い、長い夢だった。
不思議と疲労感は感じていなかった。
達哉は、興味本位でグーグルで『司馬懿仲達』を検索してみた。8,400件ヒットした。
司馬家の七達は八達になっていた。
どうやら司馬懿の孫の炎は『晋』という国を建国し、広大な中華を統一したようだ。司馬懿は死後『宣帝』と謚を付けられたらしい。
「俺は、歴史を変えてしまった。本来なら自害して歴史に残らぬ人物を残してしまった」
 歴史は、変わった。
だが、時代は人智により変えることはできても、決して何者にも帰ることはできぬものがある。『人の心』である。己の心は己以外には変えることはできない。
 達哉は携帯の電源を入れ、美百合に電話した。
「たっちゃん? 何時だと思ってるの」
 相変わらず美百合の声は擦れていた。コール音も5回だった。これからたった一人で子育てをする、親には言えぬという不安で眠れぬのだろう。
「俺、達哉。俺さ、腹の子の父親になりたい。ならせてくれ」
「ちょっと。何言ってんの」
「好きな女の子供だもん。父親なんて誰でもいい」
「……馬鹿。たっちゃん、本当に馬鹿だよ」
「ああ、馬鹿で結構。俺は器用に生きることができない。潔くも生きることができない。だから、後悔のないように生きたいんだ」


114 :時間外No.01 時代 18/18 ◇jKdJ051mHQ:08/04/07 01:13:54 ID:6ALZynw7
 達哉は携帯を切ると、入学式のために祖父が買ってくれたスーツのワイシャツにアイロンをかけた。
明日は、美百合の親父さんとの大舌戦だ。ぬかりはないようにしなくては。
 カーテンを開けると夜が明けるところだった。誰もが、一度はやるように達哉は朝の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
《了》



BACK−40イヤーズ・ヴィンテージ◆QIrxf/4SJM  |  INDEXへ  |