【 傾国の猥褻企業 】
◆GAYyxJZqxc




93 :時間外No.02傾国の猥褻企業1/5 ◇GAYyxJZqxc:08/03/31 02:00:38 ID:1oU1ymOM
彼女に化粧を施された俺の顔は、妹に似ているような気がした。係長が女子高生の制服を持ってきたときは、
気が触れたかと思って、机にあった頭痛薬を薦めてみたが、『いらない』と言われた。神田係長ははじめから正
気だったようだ。しかしその正気で部下に娘の制服を着せようというのだから、係長の正気ははじめから狂気の
側に傾いているのかもしれない。
「すっごく可愛いよ!」
 パーティーで女子高生のコスプレをすると彼女に言うと、彼女は断然乗り気になった。昼すぎから家に上がり
込み、俺に女子高生ふうのメイクを施した。早い話がちょっと濃い。
「複雑な気分だ。とても」
 髪の毛にスタイリング剤をなでつけられ、最後に可愛らしいヘアピンをされた。
「せっかくのパーティーなんだからおしゃれをしないと。これでユウ君は完璧な女の子よ」
「そっちの気はないってば」
 俺は背が小さく、華奢な身体つきをしている。後ろ姿だけなら成人するまで妹と間違われてきた。春に入社し
て以来、髪を伸ばしっぱなしだったのも良くない。僕はすっかり女の子になっちゃった。
「しかし、どこに部下に女子高生の格好をさせる上司があるんだか」可愛らしくセットされた髪をなでてみた。
無意識の仕草は既に女の子のそれになっているのが悔しい。
「面白くて良いじゃない。それにそういう会社だって入る前から分かってたんでしょ?」
 係長を狂気と言うのなら、この会社からしてどうかしている。ティーン向け雑誌の連動企画として女子中高生
用のアダルトグッズを制作するような会社なのだから。実際のところは大人の使用にも十分耐えうる性具ではあ
るが、そこはまあ、イメージ戦略というものなのだろう。いずれにせよいろいろとギリギリのビジネスではある。
 今夜は、その十代の少女用バイブレーターの制作発表パーティーだ。それもただのパーティーではない。変態
的な仮装パーティーだ。こんなので、ビジネスライクな商談が出来るのだろうか。そして提携する出版社側もコ
スプレをするのだろうか?
 係長の神崎には『君はこういう場にも馴れておいた方がいい』と言われ、得に重要な役割は振られていない。
であるならば呼んで欲しくなかった。
 時計を見ると、週明けの月曜よりもなお憂鬱な土曜の夜が差し迫っていた。
「そろそろ行かないと」
 カーディガンとブレザーを羽織ると甘酸っぱい、若い娘の匂いがした。紺のソックスと女子高生の履いていた
ローファーに足を通すと、いよいよもって自分の変態性を疑ってしまう。神崎係長の娘とは靴のサイズも同じだ
った。最悪だ。
「いってらっしゃい」

94 :時間外No.02傾国の猥褻企業2/5 ◇GAYyxJZqxc:08/03/31 02:02:22 ID:1oU1ymOM
彼女は携帯で俺を撮影している。
「ブログとかミクシーに載せるの禁止な!」
 駅の改札をまで来たところで気づいた。俺はこの格好で会場まで行こうとしている。場合によっては社会から
抹殺されるかもしれない。その時、声をかけるものがあった。
「お、川島君。君も出るのか」
 同僚の大柴はロングコートを羽織っていた。右手には通勤用の鞄がぶらさがってある。だが下半身に視線を移
すと、真っ赤なロングブーツと網タイツが俺の精神を深いところで揺さぶった。
「大柴さん、あんたはSM嬢か」
「ああ、家にあったんだ」
「頼むからそういうジョークは時と場所をわきまえてくれ」
「俺はいつだって本気だよ。今日だってかなりの覚悟で来てる」
「ここまでが冗談だよな?」まさかこの男は本当にその衣装を所持しているのか?
 しかし大柴は筋肉質な笑みを浮かべて会話を濁した。
 客観的にみれば変態的な格好の不審者が一人から二人に増えただけだが、少しだけ心強くなった。俺と大柴は
首尾よく改札を抜け、パーティーの会場へたどり着いた。
 会場は高級そうなホテルで、今度彼女を連れて来ようかとも思ったが、従業員に顔を覚えられるのも業腹なの
でやめにした。
 身長の三倍はある自動ドアを通ると、冷や水をぶっかけられたような気分になった。見覚えのある編集や、他
部署の社員は皆きちんとした格好をしていた。係長の神田は苦笑いを浮かべてこちらへ急ぎ足で来る。
「ちゃんと連絡してなくてすまない。仮装パーティーは後半の部だ。プレゼンの後だよ。いや、良いんだ。会場の
上から見ているだけでいい。後半の部は編集もスク水とかになるからその時に来てもらえればいい」
 俺と大柴はパーティー会場を見下ろせる小部屋に通された。これなら、プレゼンの質疑応答も把握出来る。もと
もと必要とされていなかったので、こちらのほうが気楽で良いかもしれない。
 会場が暗転すると、白い幕にプロジェクターの光が投影された。スライドの中央は『はじめてのひとりえっち
でイってみよう!』と題されたテキストが映し出されている。背景は扇情的な格好をした女子学生。右下にはう
ちの会社と出版社のクレジットが入っている。
「世も末だな」
「君もそう思うか」大柴が言う。
 鮮やかでスタイリッシュなプレゼンとは裏腹に、その内容は猥褻きわまるものだった。
「今回、主な購読層である中高生の身体に配慮して、刺激は若干低めになっております。しかしながら、十代の

95 :時間外No.02傾国の猥褻企業3/5 ◇GAYyxJZqxc:08/03/31 02:03:09 ID:1oU1ymOM
身体的特徴を人体工学的な見地から徹底的にリサーチましたので、必要なところに必要なだけの刺激が適切に送
られる構造になっております」スライドは局部の断面図に切り替わり、挿入の模式図がムービーで流れた。「ま
た、商品の購入に際しては三村出版さんのご協力もあり、携帯から簡単に購入できるようになりました。パケッ
ト代から毎月数百円づつ分割して支払うという選択肢もありますので、親にばれるリスクも抑えられます」
 会場からおー、という嘆息が漏れた。
「――以上で、三村出版、および、株式会社パープルラボ合同プロジェクト『はじめてのひとりえっちでイって
みよう!』の発表を終わらせていただきます。ご静聴ありがとうございました」
 質疑応答が終わると、司会が入れ替わり、この後はコスプレパーティーであるとアナウンスされた。照明がつ
けられ、パーティーは幕間となった。ほとんどの人間が着替えるために会場を出ようと押し合いへし合いしてい
る。その中にはちらほらと若い女性もいた。俺は少しだけ心が躍った。
「おや、社長に、副社長もいる。どんな格好をするんだろうか」俺の呟きを大柴は聞き逃さなかった。
「神田係長の話だと、社長はバニーで、副社長はスク水だったな」
「引き取ってもらえないだろうか」
「けっこうなことじゃないか。それじゃあ、また後でな」
 大柴はなぜかうれしそうにして会場へ消えた。ボンテージと通勤用の鞄が絶望的に調和していない。俺はしば
らくこのパーティーを上から眺めていることにした。眼下の会場は地獄のような光景が広がっているからだ。
 再び会場が暗転すると、先ほどの司会が現れ、スポットライトが当てられた。
「本日は三村出版、株式会社パープルラボ共同プロジェクト、新製品発表式に出席いただき、まことにありがと
うございます。それでは後半の部に先立ちまして、株式会社パープルラボ代表取締役社長、近藤無男さまからお
言葉をいただきたいと存じます」
 近藤無男と言うのは偽名だ。コンドームとかけていると本人は得意になっているが、失笑を受けることが多い。
どうせこの挨拶にしてもそのことを話すのだろう、と思っていたが、当の社長が出てこない。次第に会場もざわ
つきだす。
「社長は我々が拘束した!」
 その声を皮切りに、会場へ数十名の男たちがなだれ込んできた。男たちは三つの会場入り口を開け放つと、一
気呵成にパーティー参加者を拘束した。コスプレをしていたこともあり、参加者はあっという間に縛り上げられ
た。
 司会からマイクを奪い、最初の号令をかけた男が壇上へ上がる。それはボンテージ姿の大柴だった。
「性の乱れは国の乱れ。我々は傾国の変態企業を社会から抹殺せんとして立ち上がった政治結社なり。児童ポル
ノに関わりを持つ貴様らを潰す! ……そうだな、手始めにまずは社長からだ!」

96 :時間外No.02傾国の猥褻企業4/5 ◇GAYyxJZqxc:08/03/31 02:03:59 ID:1oU1ymOM
大柴が指を鳴らすと、白い布に覆い被された箱が壇上に上げられる。
「こいつを見てくれ」
 布がはがされると、プラスチックのケースにバニーガールのコスプレをした社長が閉じこめられていた。全身
は荒縄で縛られている。
「貴様らが、今回の新商品を売り出すことはない! 既に工場の生産ラインは破壊した。さらに会社のネットワ
ークに残っている金型のデータは俺が昨日削除した。我々は会場にある最後のデータと、社長の名誉を破壊する
!」
「やめろ大柴! 気が触れたか! おまえほど率先して女子高生愛液ローションの開発に携わった者がどうして
……!」
 メイド姿の課長が大柴を説得する。
「うるさい! 貴様らは私腹のために国の性を乱し、国を傾けるのか! まずは社長の名誉を潰すために、こう
してくれる」
 暗い会場にフラッシュの閃光が瞬く。
「こいつをネットワークにばらまくぞ! さらにプレスリリースにして各媒体にも送りつける! ははっ、こい
つはブログとかミクシーの比じゃない! 新入社員の教育はすばらしい知識を与えてくれたもんだ!」
「やめろ! そんなおっさんバニーガールのM字開脚なんて世界中の誰も望んではない!」
「ばかめ! どんなモノにでも需要はあるのだ! 世界中のニーズを掘り起こせとは誰のセリフだったかな?」
 スク水姿の副社長がくっと息を詰まらせてうつむく。
「年若い少女向けのバイブを開発しようとしたのがおまえらの運の尽きだ! 貴様らは我々の逆鱗に触れた!」
 大柴は先ほどまでのひょうひょうとした感じとは打って変わって、演説調のしゃべり方になっている。ボンテ
ージの男がスライドを上映していたパソコンへ向かう。その中には金型のデータや各種の研究資料が詰まってい
たはずだ。
 大柴が通勤用の鞄から鞭と警棒のようなものを取り出す。
「やめろ! それだけはやめてくれ!」
 懇願する副社長が非情な鞭に打たれた。
 こんなとき、俺はどうすれば良い? それはまあここの社員だから、大柴を止めるべきではあるのかもしれな
い。しかし、大柴の説はごもっともだ。それに同調する自分もいる。一方で明日からの生活という問題もある。
場合によってはこれによって会社が傾くかもしれない。となると、しばらくの間彼女に食わせてもらう日が続く
可能性もある。
 頭の中で停滞する思考とは真逆に、俺の身体は二階の小部屋を抜け階段を下る。

97 :時間外No.02傾国の猥褻企業5/5 ◇GAYyxJZqxc:08/03/31 02:05:01 ID:1oU1ymOM
俺は大柴を止めたい。
 いや、違う。大柴に内在する矛盾を解決してやりたい。あの男は本当に破壊を望んでいるのか? であるなら
ば、なぜあの格好をしている? 勅裁的に言えばボンテージ姿だ。あんな姿をしなくてもテロ活動は出来る。そ
れを見越した上で、なぜ、あの男は変態的な格好をしているのか? 答えは、
 大柴が変態だからだ。
 この一言に尽きるのではないか。乱れる国の性を憂いながら、その一方で、己の変態性に気づいている。これ
は苦悩であり、その苦悩の結晶が彼を破壊へと駆り立てるのだ。今、大柴にパソコンを破壊させてはならない。
俺は、論理ではなく、直感でそう思う。ドアを勢いまかせで開き、腹の底から声を出す。
「やめろ大柴! お前も本当は変態なんだろう!? どうして自分から目を背けるんだ!」
「何を言う! 目を背けるも何も、俺はここにいるだろうが」
「嘘だ。お前はお前自身をだましている。じゃあ聞くが、何でお前はそんな格好をしているんだ? それはお前
自身が望んだからじゃないのか? 実はその格好をすることで密かなる変態性欲を満たしているんじゃないのか
?」
 大柴は言い返さずに、がっくりと肩を落とした。
「ほら、言い返せないだろう。自分でも気づいていないかもしれないが、お前は紛れもない変態なんだ。それに、
バイブの開発が国を傾けるなんて決まったわけじゃないだろ?」
「だまされるな大柴!」仲間の一人が叫ぶ。しかし、大柴はその声に反応を示さない。
「私も変態だ!」
 恥ずかしい格好に固定された社長が声を上げた。
「変態でなにが悪い! 女子中高生に性を開放して何が悪い! そんなこと、隠す方が恥ずかしいじゃないか!
私は女子高生とか、大好きだ!」悲哀のこもった社長の叫びが、しんとした会場に響く。
「そうだ。私も大好きだ。女子高生とか、大好きだ!」
 係長の神田もそれに合わせる。
 そして変態のカミングアウトは渦となり、会場は暖かい一体感に包まれた。
「私をぶってくれ。懺悔とかそういうんじゃなくて、ただぶって欲しいんだ」
 社長が大柴に懇願した。社長はドMだった。大勢の社員が見守る中、社長は全身を打ち据えられた。
 会は無事終了、大柴の件は何も無かったことになり、内々で処理されることとなった。


 ――二週間後、データは奇跡的に復旧され、新製品は日の目を見た。そして俺は転職を決め込んだ。



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