【 ダイヤモンドに恋してる 】
◆AyeEO8H47E




466 名前:(品)ダイヤモンドに恋してる1/2 ◆AyeEO8H47E :2008/03/24(月) 00:29:45.85 ID:BWjR1L400
 俺の彼女は、ダイヤモンドに恋をしている。たかが石だ、と俺は思う。しかし彼女にとってはそうではない。俺は彼女の彼氏なのだが、
彼女は俺より石のことを大事に思っている。俺の彼氏としての程度が低いのか、それとも彼女のダイヤモンドに対する愛情が異常なのか、
当事者である俺には判断が付きかねた。そこで、俺は日曜に、彼女が一番大事にしているダイヤモンドの指輪を持って、とある宝石商を
訪れた。
「この指輪の値段を鑑定して欲しい」
 俺は単刀直入に切り出した。
「かしこまりました」
 そう言って初老の宝石商は片眼鏡を左目に器用にはめると、ダイヤの指輪を手にとってしげしげと観察し始めた。
「ふむ。だいたい二百五十万といったところですな」
「そうか。どうもありがとう」
 俺は手帳に、二百五十、と書き込むと店を出た。
 次に俺は、町を歩く頭の悪そうな女を捕まえて、聞いてみた。
「俺と付き合わない?」
 頭の悪そうな女は、俺の顔を見て、三秒で返事をした。
「よろこんで」
 三ヵ月後の朝、俺は頭の悪い女にベッドの上で聞いた。
「俺と付き合ってからこの三ヶ月、どうだった?」
「どうって。とっても素敵だったわ」
「素敵。ふむ。どのくらい素敵だった?」
「え……そりゃ夢のように素敵だったわよ」
「もうちょっと具体的に頼む。例えばお金で言うと、どれくらい?」
「何を言っているの。あなたとの思い出を、お金の額なんかには例えられないわ」
 彼女は少し怒って言った。そこで、俺は大きなダイヤモンドの指輪を取り出し、彼女に見せた。
「まあ……」
 彼女は息を呑む。
「二百五十万するんだ」
 この日のために買っておいた物だ。
「そんなに真剣だったなんて。嬉しい、私……私、あなたとなら一生――」
「これあげるから、俺と別れてくんない?」

467 名前:(品)ダイヤモンドに恋してる2/2 ◆AyeEO8H47E :2008/03/24(月) 00:30:23.47 ID:BWjR1L400
 右の頬がヒリヒリする。頭の悪い女は、ダイヤモンドを受け取らずに、去っていった。しかし、これでわかった。俺は客観的に見て、
二百五十万のダイヤモンドの指輪より価値のある男だ。つまり、俺の彼女は異常なのだ。ダイヤモンドの指輪なんかより、俺をもっと
大事にするべきなのだ。勢いを得た俺は、彼女の家へ向かった。
「こんにちは」
 インターホンに話しかける。
「あら、三ヶ月ぶりね。何か用?」
「俺とダイヤモンド、どっちが大事?」
「ダイヤモンドよ」
 予想通りの即答。
「じゃあ、なんで俺と付き合ってるの?」
「ダイヤモンドを買ってくれるからよ」
「なら、君はダイヤモンドを買ってくれる男なら誰とでも付き合うって言うのかい?」
「そういうことになるわね」
「そんなのおかしいよ」
「そうかもしれないわね。でも、仕方ないじゃない。好きなものは好きなんだから」
 俺は言葉に詰まってしまう。こんなはずではなかった。
「どうしたら俺を見てくれるんだ」
「そうね」
 少しの間考えて、彼女は言った。
「あなた自身がダイヤになるしかないんじゃない?」

 家に帰ってから俺は考えた。俺はどうやったらダイヤモンドになれるのか。既にダイヤモンドに負けない価値があることはわかった。
俺がダイヤたる為には何が足りないのだろう。俺は考えに考えた。そして、夜が明けようかと言う頃、とうとう結論が出た。
 俺に無くて、ダイヤモンドにあるもの。それは硬さだ。世界一の硬さだ。
 翌日の朝、俺はインド行きの飛行機に乗り込んだ。以前雑誌で、金属のように体を硬くすることができると言うインド人の話を読んだ
ことがあったからだ。この修行に何年かかるかわからない。その間に彼女が、誰か俺の知らない金持ちと結婚するかもしれない。しかし、
そんなことはどうでもよかった。付き合おうが、結婚しようが、彼女にとって、全ての男は、ただの男なのだ。俺にとって、ダイヤがただ
のダイヤに過ぎないように。俺は彼女の愛を勝ち取るためなら、何だってやるさ。ただのダイヤにだって、なってやるさ。



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