【 ピンクダイヤ 】
◆ZnBI2EKkq.




403 名前:品評会:ピンクダイヤ 1/3 ◆ZnBI2EKkq. :2008/03/23(日) 23:52:24.41 ID:S/difAwH0
 一人の少女への愛の為に、二つの王国が争い、多くの血が流された。
 川は真っ赤に染まり、海でさえ赤く染まるほどに。
 それでも血は流され続けた。
 愛という名の元では全てが正義であったのだ。
 それゆえに血は止まることなく、争いは繰り返され、山々でさえ赤く燃え上がった。
 それを見かねた神々は、少女を宝石の中へ隠してしまった。
 二人の国王は怒り狂い、神々を呪った。
 しかし、二つの国王はそれでもあきらめなかった、絶対の愛のため、少女がまた現れるまで彼らも眠りについたのだ。
 いつしか争いは終わり、少女は隠されたまま、数千年の時が流れた。
 
「というわけじゃ」
 そう言って少女は、俺が入れてやったミルクココアを飲んだ。
「うーむ、不思議な飲み物じゃが、甘くてよいの」
 少女は唇についた、ココアの泡を真っ赤な舌でなめるとる。
「なんじゃ、無反応のやつじゃの。それともわしの美しさに言葉をうしなっとるのかの?」
 そう言って微笑む少女は、確かに美しかった。
 腰まで伸びる桜色の髪に、薄くピンクかかった大きな瞳が爛々と輝いている。小さな顔に鼻筋がすっと通っていて、あどけない
表情は年端もいかない少女のようであったが、ふっくらとした唇だけが、水々しく赤く艶掛かり、淫靡でさえあった。
「困ったもんじゃな、数千年ぶりにわしを開放したのが、口も聞けぬあほうとはな」
 あほうと言うわけではない、俺は生まれつき話すということができないのだ。
 こんな訳の分からない事になったのも、この生まれつきの障害のためでもあった。
 それというのも、俺は二年ほどつきあった彼女にプロポーズのため、婚約指輪を用意したのだ。
 いいものを買えるほどお金があるわけでなかった、それで宝石商の知り合いに頼み込み出物を探してもらった。いつくか探して
くれたのだが、その中にピンクのダイヤがあった。"ピンクダイヤモンド"それは、ダイヤの中でもトップクラスの石で、俺の稼ぎで
は到底買えるようなものではないのだが、そのダイヤは傷があるために安かったのだ。ダイヤの中央に亀裂があって、割れやすい
ため屑石として扱われていた。しかし、素人目に見ればそれは美しかった。まるでダイヤの中にもう一つ真っ赤なダイヤが、溶け込
んでいるように見えた。
 そうして、そのダイヤにリングをつけもらい、意気揚々と彼女へと渡したまではよかった。

405 名前:品評会:ピンクダイヤ 2/3 ◆ZnBI2EKkq. :2008/03/23(日) 23:53:20.08 ID:S/difAwH0
 てっきり喜んでくれると信じていた、しかし現実は非情であった。
「ごめんなさい、やっぱり私……自信がないの、あなたとこれからずっと一緒にすごせる自信が……」
 現実は厳しく非情であった。そんな涙を見せる彼女に何も言えない自分が歯痒く、そして悔しかった。
 俺は黙ってうなずき彼女を抱きしめ、口で言えない言葉を伝えるように笑いかけながら、彼女と"別れた"のだ。
 そうして、一人暮らしのマンションに帰ってきてた私は、真っ先に指輪を取り出すと、思いっきりテーブルへ投げつけていた。
 傷物であったダイヤが小さなきらきらとした破片となって砕けのが見えて悟ったのだ、このダイヤは俺のようなものであったと、
欠陥品の屑物だと。
 酒でも飲もうと、部屋の入り口にある冷蔵庫をからビールを取り出し、振り返るとそこには、見たこともないベールの服を着た少女がいたのだ。
「おい、何か飲み物をもて」
 まるで夢のような出来事に、思考が麻痺した俺は素直に飲み物を用意したというわけである。
 それから少女は馬鹿げた、何ともメルヘンな話を語りだし、俺は頭のおかしい子が迷い込んだろうかとか、それとも夢なんだろうとか、
頭を悩ませつつ上の空で話を聞いたのであった。
「しかし、恩人には違いないからの、一つ願いを叶えてやらねならんが……」
 一指し指を下唇に当てて、俺の目を覗き込んできた。
 "一つだけ願いを"古びた台詞に、思考が途切れ苦笑してしまう。
 少女がニコリと微笑んだ、その笑顔はあどけない少女そのものであった。
「なんじゃ、あほうと言うわけでもないのかの、もしかして口が聞けんのか?」
 もしかしたら、本当に願いをかなえてくれるかもしれないと、俺は上下に頭を振って返事する。
「ふむふむ、それは違うということじゃな」
 俺はびっくりして左右に頭を振る。
「それは、うーん、ふむ、これは困ったな、願いなど何もないというのか。うーむ」
 少女は美しい眉間に小さな皺を寄せると、腕を組みながら唸っている。
 俺はなんだか悲しくなって、呆然と少女を見詰めるだけしかできない。頭の中では少女の話を信じてるわけでもないし、少女が本当に俺の願いを
叶えてくれるとも信じてはいない、しかし、それでももしかしたらという心の奥底にある渇望をとめることはできなかったのだ。

406 名前:品評会:ピンクダイヤ 3/3 ◆ZnBI2EKkq. :2008/03/23(日) 23:53:34.93 ID:S/difAwH0
「うーぷぷ、あーはははは」
 そんな俺の顔を横目で見たと思うと、少女が笑い出した。
「くくく、すまんすまん、口が聞けるようにしてほしいのじゃろう。お前はなかなか面白い顔をするの」
 そう言ってお腹を抱えながら、眼に笑い涙を浮かべている少女を見ても、俺は怒るよりも、頭を上下左右に動かして答えるので精一杯だった。
「よしよし、わかったわかった。しかし、口が聞けぬとは、おまえはなかなか幸運な男じゃの」
 少女はそのふっくらとした唇を吊り上げて、怪しげな笑みを浮かべた。
 そして、俺のうなじに手を回して、しっかりと俺の目をみる。
 眼と鼻の先に少女の大きな眼が――
「おい、こういう時は目を閉じるもんじゃぞ」
 そういう少女の頬が少し赤く染まっていたのは、見間違いではないだろう。

「ということがあったんだよ!」
 と俺は力説すると、彼女は冷たい視線でこういった。
「ふーん、今まで私のことだましてたんだ? 別れたくないからって、あんたの言う魔法か何だかしらないけど、口が聞けるようになったと?」
「いや、本当に魔法なんだって! だから結婚しよう!」
 彼女は大きくため息をつくと、思いっきり俺をひっぱ叩いた。
「馬鹿にしないでよ! 口が聞けないけどいい人だったからつきあってたのに、今更口が聞けるとか魔法だとか、人のことずっと騙しといて、最低!」
 それだけ言うと、足早に彼女は去っていった。
 思いっきりひっぱたかれた頬の痛みに驚きつつ、彼女の後姿を見送る俺は思った。
――夢じゃないのか……。



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