【 願うことの意味 】
◆junm3.49.6




願うことの意味 ◆junm3.49.6 投稿日: 2006/05/29(月) 00:24:23.88 id:flgbdwjho
「この町の空も、いつの間にか汚れちまったな…」
俺は生まれてから22年間ずっと、この町で育って来た。3年前までは、静かだってことだけが取り柄の、小さな町だった。だが、この田舎町も工業化の煽りを受けて、工場が立ち並ぶ町になってしまった。
東京という大都会の片隅にある町だし、こうなるのは当然だったのかも知れない。それでも俺は寂しかった。工場は、俺がよく見上げていた空も汚してしまった。本当に綺麗に星が見える町だった。
あの夜も、満天の星空が広がっていた。

◆junm3.49.6 投稿日: 2006/05/29(月) 00:32:28.18 id:flgbdwjho
〜5年前
俺「…な、なあ」
「何?」
俺「今晩さ、花火大会あるだろ?よければ一緒にどうかなって…」
「そうね…特に用事は無いし、いいよ」

付き合ってもいない男女が二人きりで花火大会。冷静に考えればおかしな話だ。
中学時代からの知り合いとはいえ、一緒に出かけたことなどない。当然思いを伝えてもいない。気づかない内に俺は危ない橋を渡っていたのかも知れない。まあ、結果的には無傷だったが。

花火を見た後、俺たちは人混みを避けて歩いていた。その内人気の無い公園を見つけたので、ベンチで休憩することにした。
俺「花火、綺麗だったな。」
「だねw誘ってくれてありがと。」
俺「いえいえwそれにしても星も綺麗なとこだな、ここは。」
「この町が唯一誇れるとこかもね……あっ、流れ星!」

◆junm3.49.6 投稿日: 2006/05/29(月) 00:39:54.15 id:flgbdwjho
俺はとっさに、
「今隣にいる人と、ずっと一緒にいられるように…」と願った。
「ねえ、何かお願いした?」
俺は答えられるはずもなく、黙り込んだ。すると彼女はこう言った。
「私はね、あなたとずっと一緒にいられるようにって…」
俺は一瞬、何が何だかわからなかった。さらに彼女はこう言った。
「あなたのこと、ずっと好きだったんだ。」

それから時は流れ、それぞれ違う大学に入った俺たちは、電話で交流を続けていたが、いつしか疎遠になっていった。滅多に会えないという状況の中で、気持ちが冷めてしまったのかも知れない。

そして今俺は、あの日二人で座った公園のベンチに一人で座り空を眺めている。
「この町の空も、いつの間にか汚れちまったな」
そんなことを呟きながら、鈍く、ぼんやりと輝く星を見る。
突然、一筋の光が空を裂いた。今さら、願うことなんて無いか…一瞬そう思ったが、思い直してこう願った。
「あの日の星空を、もう一度」
流れ星は、願いをかけ終わる前に闇へと消えていた。





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