【 密集するものに集まる二人 】
◆A9epGInhJg




2 :No.01 密集するものに集まる二人 1/5 ◇A9epGInhJg:08/01/19 01:17:21 ID:7CnOJdyG
 空は青く、蝉の鳴き声が響き渡る。夏特有の日差しは、道行くものの体温を上昇させる。
 町のはずれにある、とても小さな公園。そこで木陰のベンチに座り、二人の小学生が話をしていた。
 一人は男の子で、眼鏡をかけている。頭が良さそうな顔立ちでいながら、シャツもズボンも流行をあしらっている。
 そしてもう一人は女の子で、髪はショート、服装も活発そうなTシャツに短パンだ。
「えっ? 修君もう自由研究終わっちゃったの?」
「美里はまだ終わってないの?」
「だってまだ八月に入ったばかりだよ? 普通終わってないよ」
「僕は面倒なのからやるタイプだから。そのかわりまだ他の宿題は終わってないよ」
 修は美里にまじまじと見つめられた。
 夏休みの宿題の中で最も大変そうな自由研究をもう終わらせたなんて、美里には考えられなかったようだ。
「まだ何も考えてないや。自由研究どうしよう」
 美里は不安げにうつむいた。しかし、良い案が浮かんだようで顔を上げて言った。
「そうだ! 修君も一緒に考えてよ」
「言うと思った。美里が、『終わっちゃったの?』って言ったときからそう言うと思ってた」
 美里はきょとんとしたあと、笑った。
「あはは。よく分かってるじゃない」
「まぁいいよ。どうせ暇だしね」
 二人は自由研究のお題を考えはじめた。美里がうんうん唸っている。
 ふと修が視線を土にやる。美里もつられてそれを見た。
「うっ」
 美里が顔をしかめる。修は何かを考えながらつぶやいた。
「蟻が蝉の死体に群がってる」
 修の頭にはひとつの案が浮かんでいた。修の何か思いついたような様子に、美里は慌てたように言う。
「ちょっと修君。まさか蟻の観察日記にするんじゃないよね? 私が虫嫌いなの知ってるよね?」
「そうじゃないけど、そうでもあるかも」
「え?」
「つまりさ、色々な『一箇所に集まってる物』を探して集めようよ」
 理解するのに少し考え込んだ後、美里は不思議そうな顔で聞いた。

3 :No.01 密集するものに集まる二人 2/5 ◇A9epGInhJg:08/01/19 01:17:58 ID:7CnOJdyG
「つまりこの群がってる蟻もそのひとつ?」
「そうだね」
 美里はまた顔をしかめた。でも良い案だと思ったようだ。
「なるほどねー。早速行こうか」
「どこへ?」
「探しに」
「ちょっと待ってよ。メモ帳とか、シャーペンとか、あとカメラもあったほうがいいと思うよ」
「あー、そっか。じゃあ先にうちにいこう」
 二人は美里の家まで歩いた。美里が家に入っていき
「おかーさんカメラある?」という声が小さく聞こえた。
 そして、美里は必要なものを入れた小さなポーチを持って出てきた。
「おまたせ」
「まずはさっきの蟻かな」
「うへ」
 げんなりしている美里を連れて修は公園に戻る。そう時間もかかってなかったので、まだ蟻は群がっていた。
「ほら写真撮って。感想もあるといいかも」
「うー」
 美里はカメラで二、三枚蟻を撮っていく。メモ帳にも感想を書き始めた。

 ――蟻はあまり好きではないけど、蝉を運ぶために皆で協力しているのが印象に残った。

「終わったよ」
「じゃあ次だ。ちょっと心当たりがあるんだ」
 二人はその場を後にし、修の案内で道を行く。そこで、美里が空を見て気づいた。
「あ、雲がすごい大きい」
「ん? あぁほんとだ」
 二人は青と白のコントラストに目を奪われる。

4 :No.01 密集するものに集まる二人 3/5 ◇A9epGInhJg:08/01/19 01:18:31 ID:7CnOJdyG
 空にはいつのまにか巨大な積乱雲ができていた。
 それはふだんの雲とは違い、私が主役だといわんばかりに、青空に我が物顔で浮いていた。
 修が良い物を見つけたという顔で言った。
「あれも使えるんじゃない?」
「雲が集まってるって事? ……確かにそうかも」
 美里は積乱雲を写真におさめた。メモ帳にも記入する。
 
 ――普段は空を少しだけ白くしている雲が、集まるとあれだけ大きくなるのが印象に残った。

「はいっと」
「書けた? じゃあこっちこっち」
 そう言って修は歩き出す、美里もそれに続く。町のほうへは行かず、周りには畑や林が見える。
 そんな道を二人は歩き続ける。修が気づいて指差した。
 美里も気づいた様子で、そっちへ二人は近づいた。
「トウモロコシだ」美里がつぶやいた。
 二人の前に広がるトウモロコシ畑。すでに収穫できそうなくらい大きく育っている。
 背丈ほどの高さに、以前来た事がある修も含めて二人は驚いていた。
「これだけあれば十分じゃないかな」
 修の言葉を聞きながら、美里はカメラのシャッターを切った。メモ帳にも忘れずに書き入れる。

 ――粒が沢山のトウモロコシが沢山植えられていて、しゃれがきいてる感じが印象に残った。
 
「よし」
 美里が書き終わった頃、あたりはすっかり黄昏時になっていた。
 西のほうには鮮やかな赤い夕日がある。昼間ほどの暑さももうなくなっていた。
「そろそろ帰る?」
 メモ帳をしまう様子を見て、修は言った。
「そうしよっか」

5 :No.01 密集するものに集まる二人 4/5 ◇A9epGInhJg:08/01/19 01:19:01 ID:7CnOJdyG
 赤く染まった空を見ながら美里は応えた。――ふと美里は閃いたらしい。
「やっぱりまだ行くところがあるよ。思いついたんだ」
「何を?」
「こっちこっち」
 質問には答えず、美里は修の手を取り走り出す。
「ちょっとまってよ、どこへ行くのさ」
 言いながら修も走り出す。
「あんまり遅くなっても困るからさ。早く早く」
 美里は修を連れて、町からさらにはずれにある、町を見下ろせる丘へ駆ける。
 辺りはどんどん暗くなっていく。
 丘へ着いた二人はそこにある展望台へと昇る。
 その頃には辺りはすっかり暗く、おぼろげな月の光だけが二人を照らしていた。
 修と美里は展望台から町を見下ろした。
「……綺麗だ」
 どちらかが思わずつぶやいた。前方に広がる視界には、空のほうは満面の星空が輝いており、
町のほうは明かりのひとつひとつが寄り集まって、きらめいていた。
 二人は早く帰らなければいけないことも忘れ、目の前の夜景に圧倒されていた。
 数分ほど経っただろうか。
 ふと気づいた修は言った。
「写真撮らなくていいのかよ」
 美里はその声に、ここへ何をしにきたのか思い出したように慌ててカメラを取り出し、目の前の光景をおさめる。
 美里は満足そうに一息ついた。
 そして二人は、時間も遅いのでと展望台を降りた。
 町のほうへ二人は歩き続ける。辺りが少し明るくなったところで美里はメモ帳を開く。

 ――星が集まった夜空と人が集まった夜景はどちらも綺麗で印象に残った。

6 :No.01 密集するものに集まる二人 5/5 ◇A9epGInhJg:08/01/19 01:19:34 ID:7CnOJdyG
 二人は分かれ道で立ち止まった。美里は今日の事を思い出しているのか、満面の笑顔で言った。
「綺麗だったね。今日は楽しかったよ。また明日も探そうね、修君」
 その笑顔を見て何故か急に気恥ずかしくなり、修は少し目をそらしながら言う。
「じゃ、じゃあまた明日」
 そうして二人は自分らの家に帰っていった。





 |  INDEXへ  |  NEXT−密度の高い生活◆AQPtidcoho