【 シャッターチャンス 】
◆/Sabxfpahw




66 :時間外No.01 シャッターチャンス ◇/SAbxfpahw:07/06/18 00:34:03 ID:qvtfCPWI
私は病院のベットに寝ながら、その傍の卓上に飾ってある写真を見ていた。
人間とはよく出来た生き物だ。写真を見ただけで、当時味わった五感の感覚が蘇ってくる。
私はもっと近くで見たいと思い、写真立てを片手で掴み顔の前まで寄せる。
そうだ、一生忘れることはない昨日のように思い出せる。三十年前妻を初めてデートに誘い自慢のカメラで撮った写真。
ボタンの感触、シャッター音まで覚えている。しかしその思い出のカメラは自分の医療費の為、
質屋にいれてしまった。自分の経済力の無さが残念でならない。
―――カシャ
不意にどこからか音が響いてき、思考が途切れた。
―――カシャ
もう一度響く。もしやこの音まさか……目を写真から音のする方へ移すと妻がカメラを此方に向け、シャッターをきっていた。
「おい、それ…」
私は妻が持っているモノを見て目が点になる。
「だってあなたこの音聞きたかったのでしょ?」
私が泣く泣く売った筈の一眼レフのカメラ。なぜそんな物を妻が持っているんだ。
「お前、それをどこから」
「今日は初めてあなたと出会った記念日だから」
そう言うと妻はカメラを私に差し出した。
「撮って下さらない?」
妻は歳相応とは到底思えない仕草をし、ポーズをとりながらそう呟いた。
妻の行動があの頃とダブる。
私はベットから上半身だけを起きあがらせ、言われるがままにカメラを妻に向けた。
周りは白い壁の筈だが、レンズ越しには妻があの写真の風景に当時のまま佇んでいるように見えた。
―――カシャ
そして私はシャッターをきった。
妻との思い出はシャッター音で始まりシャッター音で終わる。
《完》



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