134 :No.39 物語=復讐× (1/1) ◇667SqoiTR2:07/02/25 23:44:16 ID:6Tu5S6sN
結局のところ、彼は老人を殺すことが出来なかった。
日本刀を振り上げた彼は、寝ているように横たわる老人を見て泣いた。
彼の復讐はもう永遠に果たせない。
老人はもうすでに死んでいた。
彼は老人を恨んだ。彼は日本刀を恨んだ。彼は父親を恨んだ。
なによりも彼は、今までの旅を恨んだ。
その旅は地獄だった。
老人の居場所を求めるためだけにさまよう旅のはずだった。
だが、面倒はやってきた。
彼は面倒を斬り倒した。老人への道に立ち塞がる者は敵だった。
因縁をつけてきた者を殺して、喧嘩を仲裁した者を殺して、立ち向かってきた者を殺した。
全て肉袋に見えた。
彼は鬼だった。復讐の鬼だった。
脳裏に浮かぶのは父親と父親を殺した老人だけだった。
その瞬間を忘れようとも思わなかった。
血溜まりに沈む父親とそれを見下す老人。
復讐するならしろ。そう言って老人は彼に父親を斬った日本刀を渡した。
その時、彼は何もわからなかった。ごっそりと奪われたのだから。
全てが変化したその日。彼は父親を殺すはずだった。
父親は母親を殺した。それを知ったとき、彼は復讐を誓った。
だから、母親を殺した父親を殺した老人を、母親を殺した父親を殺した日本刀で、殺さなければならなかった。
そう気付いたとき、彼は母親との幸せな日々を思い出す事をやめた。
料理を作る後姿も、父親から庇ってくれたことも、やつれた表情も、全て捨て去った。
どれも無駄になった。老人は死んでいた。
彼は呆然と立ち竦んでいる間、人が集まってきた。死期が近いと予測していた人達だった。
そして、彼は聞いた。老人は母親の父親であった事を。彼はただ泣いた。
彼は後悔した。全てを。殺したことを。殺そうとしたことを。
だから、彼は待ち続ける。復讐されるまで。
これは復讐の物語。
了